北京留学中、タダで「クラブ通い」してきた。
興に乗じて何かやらかしてしまうことを「羽目を外す」という。
「はめる」のか、「はずす」のか、はっきりしてほしい。
駅もない田舎町で育ったわたしは、生まれてからずっと「夜の街にくりだす」という瀟洒なことに縁がなかった。
「羽目を外した」といえるようなことをしたのは、北京生活中くらいである。
外国人にとって、北京ほどファンキーな街はない。
三里屯へ行くと、クラブが林立している。
昼間に行っても気付かなかったのに、夜の街には駐車車両が長蛇の列をなし、クラブの看板が明るく光っている。
そこのクラブは、外国人はなぜかタダだった。
外見が中国人なアジア人でもタダだったのだ。
しかも、何かのアルコールもタダで饗されていた。
タダ酒が飲み放題だったのだ。
そんな遊び場をわたしの友人たちが見逃すわけがない。
週末の夕方になるといつも、今宵はどこのクラブに行くかといって、騒ぎ出す。
わたしにも「遊びに行こう」といってくるから、インドア派にもかかわらず、「モノは試しだから」と夜の街に繰り出した。
(グラマラスボディのスラヴ系美女とワンチャンあるかもしれないという期待が1㎜もなかったといえば、ウソになる。少なくとも10㎞はあった。)
そんな流れで、友人たちとタクシーに乗り合わせて、クラブへ行くのが常だった。
距離は、「スラヴ系美女との一夜」が起こりうる期待値と同じくらいだったが、料金は日本のタクシーより安かった。
夜の街では、おおいに飲み、おおいに酔い、おおいに吐いた。
友人たちと毎週はしゃぎまくったわけだが、わたしはクラブがきらいだ。
①音量が大きすぎる
入口はあれほど静かなのに、地下に降りたら別世界である。
すぐに耳が痛くなってくる。
うるさすぎて、友人たちとの会話は耳元で大声となる。
この叫び声が耳の痛さを助長する。
耳の中は、鼓膜をアイスピックで突かれたかとおもうほど痛い。
帰ったときには、耳がぐわんぐわんして、お椀をかぶせているような感じになる。
周りの声が聞こえなくて、初めてクラブにいったときは本気で難聴になったかとおもった。
外国語を話すために留学したのに、日本語も話せなくなるぞと本気で悩んだものだ。
②0時をすぎると眠い
ただでさえインドア派ぐうたら系である。
留学中は時間があるのに任せて、初め数カ月は1日12時間ねていた。
次の日が休みだから徹夜でも大丈夫という人とは違うのだ。
クラブはどうせ窓がないのだから、昼間にあけてほしいものだ。
③お酒によわい
あるいは、お酒がつよすぎる。
何の酒かわからないのだが、たぶんウオッカだったとおもう。
少し飲んだら酔うし、お腹の中がただれているのがよくわかった。
帰ったら寮があくまで、友人たちと行きつけの餃子屋へいくのだが、酒に加えニンニクの臭いで、わたしの口はこの世のものとはおもえないほどの悪臭を放っていた。
もちろん、疲れて眠いので、歯を磨かずにねる。
起きてからたくさんのクレームを言われる。
④踊れない
泥酔のさなか、クラブにはクラブの躍り方があることを見抜いた。
わたしはミスター・ビーンみたいな踊りしかできない(非常にうけるが、全くモテない)。
早々にあきらめて、飲みにまわるという悪循環の原因だった。
クラブへは何度も繰り出したが、絶対に寮で寝ている方がよかった。
(つまり、スラヴ系美女とは何もなかったのだ。誠に残念である。)